こんにちは。株式会社SaveMedicalブログ編集部です。
弊社ではDTx/SaMD開発に向けた初期検討のため、プロトタイプのフィージビリティ(実現可能性)検証に注力しています。
本記事では、オンライン完結型医学研究として実施した、「排泄予測デバイスを併用した行動療法アプリのフィージビリティ試験」について紹介します。
過活動膀胱の概要と現在の治療法
急な強い尿意や尿もれといった症状を持つ過活動膀胱(OAB)に特徴的な症状は、40代以上に生じやすく、800-1000万人の方がOABに罹患していると言われています。
現在のOABに対する治療法は主に薬剤であり、診療ガイドライン(1,2)で推奨されている膀胱訓練(3)や骨盤底筋トレーニング(4)は、十分に指導されていません。
この背景として、これらの行動療法には指導の専門性が必要な点や、臨床での指導に一定の時間がかかる点が挙げられます。
- 過活動膀胱診療ガイドライン(第三版)
- 女性下部尿路症状診療ガイドライン(第二版)
- 膀胱訓練: 尿意を感じてから排尿までの時間を少しずつ伸ばしていく行動療法
- 骨盤底筋トレーニング: 骨盤内の臓器を支える筋肉である骨盤底筋を鍛えるため、膣や肛門付近の筋肉を意識的に締める行動療法
行動療法アプリの医学系研究の背景
一方、海外では膀胱訓練や骨盤底筋トレーニングを組み合わせたスマートフォンアプリが切迫性尿失禁に対して尿失禁回数を低減させたという報告(1,2)があり、膀胱訓練や骨盤底筋トレーニングをアプリ上で実施することの有用性が期待されました。
そこで、トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社の協力のもと、膀胱の大きさを超音波センサーで測定できる排泄予測デバイスDFreeを用いて、アプリ上で尿のたまり具合や排尿間隔を確認しながら膀胱訓練や行動療法を行うことの実現可能性を確認するため、医学系研究を実施することとしました。
排泄予測デバイスDFree
DFree専用アプリ
- J Med Internet Res.,2021,23(4),e19439.
- Ann Fam Med.,2021,19(2),102–109.
医学系研究とは
人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(厚労省)によると、医学系研究とは、以下のように定義されています。
実施しようとする試験が医学系研究に該当する場合は、この倫理指針に従って試験を行う必要があります。
今回は、DFreeを併用した行動療法アプリの実現可能性を評価するとともに、有効性や安全性に関するデータを取得するため、医学系研究として実施しました。
人を対象とする生命科学・医学系研究 人を対象として、次のア又はイを目的として実施される活動をいう。 ア 次の①、②、③又は④を通じて、国民の健康の保持増進又は患者の傷病からの回復若しくは生活の質の向上に資する知識を得ること ① 傷病の成因(健康に関する様々な事象の頻度及び分布並びにそれらに影響を与える要因を含む。)の理解 ② 病態の理解 ③ 傷病の予防方法の改善又は有効性の検証 ④ 医療における診断方法及び治療方法の改善又は有効性の検証 イ 人由来の試料・情報を用いて、ヒトゲノム及び遺伝子の構造又は機能並びに遺伝子の変異又は発現に関する知識を得ること
人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(厚労省)
医学系研究開始までのステップ
以下の流れで準備を進めました。
1)試験計画立案
まず、医学系研究の経験を持つ社外アドバイザー、泌尿器医の指導のもと、試験計画(選択基準、除外基準、試験期間、評価項目など)を立案しました。
2)行動療法コンテンツ作成・アプリ改修
次に、泌尿器医や理学療法士の指導のもと、行動療法コンテンツを作成しました。
このとき、最小限の費用と工数でプロトタイプを作成するため、ペライチやkeynoteなどのノーコードツールを活用してコンテンツを作成しました。
さらに、既存のDFree専用アプリについて今回の試験目的に合わせて最低限の改修を行いました。
3)調査会社を介したリクルート準備
1)で作成した試験計画に基づくアンケート設問(スクリーナー)と募集画面を作成しました。
4)調査会社を介したリクルート準備
倫理審査に向けた試験計画書、参加者向けの同意説明文書および運用手順書等の各種書類を作成しました。
上記のように、様々な方の協力を得ながら、4~5ヶ月の期間で上記の準備を整え、2023年7月後半に医学系研究を開始しました。
オンライン完結型での医学系研究運用
本医学系研究は、過活動膀胱の治療薬を服用していない方に気軽に参加していただくため、リクルートから運用まで、すべてオンラインで実施しました。
<主な流れ>
オンライン完結型医学研究は、弊社でも初めての試みでした。最初は不慣れな部分もありましたが、運用面で改善を重ね、大きなトラブルなく運用することができました。
医学系研究を実施した所感
<よかった点>
- オンラインで運用したため、遠方の方にもご参加していただけた
- ユーザーの生の声やデータをオンラインでも得ることができた
- 倫理審査の計画書フォーマットに沿って十分に計画や体制を練っていたため、運用時のトラブルは少なかった
<注意点>
- 倫理審査費用を要した
- 倫理審査に必要な書類の準備に手間がかかった
- 倫理審査時に試験デザイン、参加者に渡す資料、アンケートなどの内容を確定する必要があった(開始後の変更不可)
おわりに
オンライン完結型での医学研究の運用や、本医学系研究の実施内容にご興味をお持ちの方は、設計開発ソリューション内の問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。
DTx/SaMD Design Studioについて
Save Medicalでは、DTx/SaMDのコンセプト策定・設計開発・臨床開発のノウハウをDTx/SaMD開発支援サービス「DTx/SaMD Design Studio」として提供しています。
お気軽にご相談/お問い合わせください。